大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和40年(ラ)86号 決定

抗告人 藤井孝男(仮名) 外四名

主文

原審判を取消す。

本件中遺産分割の申立に関する部分を千葉家庭裁判所に差戻す。

理由

本件抗告の理由は別紙(一)、(二)記載のとおりである。

よつて考えるに、原審判は抗告人ら及び藤井いとの相手方藤井貞男に対する遺留分減殺調停申立事件(但しその申立の趣旨は、被相続人藤井辰吉のなした昭和三五年一月二三日付遺言の無効確認を求め、仮りに右遺言が無効でないときは遺留分に基き右被相続人が相手方藤井貞男になした遺贈の減殺を求めるものである)並びに相手方藤井貞男外四名に対する遺産分割調停申立事件について、いずれも調停不成立に終つたが、右紛争は通常の訴訟手続によつて確定すべき事項に属し、かつ遺留分減殺請求は家庭裁判所の審判権に属さないから、それらは訴訟手続により総合合一的に地方裁判所の判断によつて確定さるべき性質のものであるから、本件について審判をすることはできないとして各申立を却下したものである。

しかし、遺産分割の調停申立は家事審判法第二六条第一項の規定によつて調停不成立の場合は審判手続に移行するのであり、そして民法九〇七条第二項、家事審判法第九条第一項乙類第一〇号によれば、遺産分割について相続人間に協議が調わない場合の裁判は専ら家庭裁判所が審判によつて行うものであつて、地方裁判所、簡易裁判所はこれに対する裁判権を有しないものと解するのが相当であるから、家庭裁判所は調停が不成立に終つた場合は遺産の範囲を確定して分割の審判をなすべきであり、従つて当事者間に遺言の効力や遺留分に基く遺贈の減殺請求の効力等について争があり、家庭裁判所がその効力を終局的に確定する裁判をする権限を有しないため、遺産の範囲を確定することが困難であるからといつて、遺産分割の審判をなすことを拒否し得るものではなく、右争について訴訟が係属するときはその結果を待つなり、或いはこれと別に遺言、遺留分減殺請求の効力等について独自の判断をするなりして、分割すべき遺産の範囲を確定した上分割の審判をすべきものと解するのが相当である。よつて右遺産分割の申立に関しては、これを却下した原審判は不当であるから、これを取消した上本件を原裁判所に差戻すべきものと認める。(なお遺産分割の申立は必要的共同訴訟の場合と同様に合一に確定すべきものであるから、本件抗告並びに本決定の効力は遺産分割の申立に関しては抗告を申立てない申立人藤井いとにも及ぶものと解する。)

また、遺留分減殺の申立自体については家庭裁判所が審判権を有しないことは原審のいうとおりであつて、家庭裁判所は調停をなすかないしは家事審判法第二四条第一項の調停に代る審判を行い得るのみであつて、家事審判法第九条の審判をすることができず、また本件遺留分減殺の申立に含まれた遺言の無効確認の申立についても同様であるが、しかし調停が不成立に終り調停に代る審判をもしない場合には事件は当然終了するものと解すべきであるから、遺留分減殺の申立に関しても、これを却下した原審判の処置は不当であつて、取消すべきものと認める。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 牛山要 裁判官 武藤英一 裁判官 今村三郎)

抗告理由 省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例